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【映画感想】映画『海を駆ける』いい話ともホラーとも違う不思議な話

(2018年 日本 監督:深田晃司)

テアトル新宿で【音声字幕付きバリアフリー上映】を観賞。

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音声字幕付き映画上映

音声字幕付きの映画上映経験は初だったのでどんな印象になるのか分からなかったが、そもそも外国が舞台で登場人物の多くも外国人だったこともあり違和感なく観賞。

現代インドネシア。ある町の海辺に謎の男が漂流。男は心神喪失でおとなしくしている。記憶喪失のようで、おそらく日本人のようだということで、身元が判明するまでNPO法人で(おそらく2004年のスマトラ島沖地震以来)災害復興支援している日本人女性 貴子が世話をすることになる。貴子は息子タカシと二人で暮らしている。タカシは見た目日本人で家では日本語で会話もできるがインドネシア育ちで国籍も精神もインドネシア人。タカシの友人のインドネシア人男女二人と、日本から訪ねてきた親戚のサチコの4人の淡い交流がメインの筋として描かれる。

このように文章で説明すると複雑な基本設定だが、自然な導入でひっかかりなく観賞した。

外国を舞台にした日本映画

外国を舞台にした日本映画というと、大林宜彦監督『天国にいちばん近い島(84)』や富田克也監督『バンコクナイツ(17)』もそうだったが、日本人訪問者の目線からその国を映すことで、自分もその国に滞在しているような映画体験ができる。自分が感情移入したのは日本から来たサチコ。彼女が初めて見る視線でインドネシアの海岸や広がる田園などの自然を味わえた。そのゆるやかな異国の環境を楽しみつつ、4人の男女の言葉やマインドの差のディスコミュニケーションから起こる些細なすれ違いの青春ドラマは、かわいらしく癒される。

そこに混ざる異物

それだけでも素敵な作品だが、そこに混じる異物が冒頭の漂流してきた謎の男。男の身元の手がかりらしきものも少しは見つかってはくるのだが、やはり謎。ものすげえハンサムだし、おとなしくいい人のようなのだが、ささやかに常人離れした行動を見せる。この男の何度かの行動がこの作品の映画的アメイジング(今あらためて予告編を見てみると名場面が結構映っているが、予告の記憶をすっかり忘れて観た自分は非常に楽しんだので、既に観に行くのを決めている方は予告編を見ない方がより楽しめると思う)。男の存在により、映画の中にかすかにあった不穏さがじわりじわりと増していく。

海を駆ける』の不穏さ

深田晃司監督の前作『淵に立つ(16)』は日本映画によくある「家族映画」と思わせて非常に恐ろしいことになる強度の高い傑作ホラー映画だったが、『海を駆ける』の不穏さはいわゆるホラー的な恐怖とは違う感覚。良質な青春/紀行映画の中に突如現れるアメイジングさは現代の話なのに民話を聞いているかのような感覚。例えるなら『新耳袋』のような良質な実話怪談の中にたまに紛れる不思議な話に近い感覚か。心の傷が癒されるような爽やかさがありながらも、何か取り返しのつかない気持ちが残るような感覚が体験できる。なので良い邦画を探している方はぜひ観てください。

海を駆ける』のパンフレット

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28Pフルカラー。パンフレットそのものが「解説読本」と銘打っている例はかなり珍しい。監督と主演ディーン・フジオカさんのインタビューも含め、複数人による解説を記載。その名の通りページの大半を作品の解説が占めている。明確な答えがあったり単純なメッセージを台詞で語るような作品ではないので、色々な人の解釈が読めるのはパンフレットとして良い。 

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