【映画感想】『ビューティフル・デイ』心霊/サイコホラーに接近するサスペンス
(2017年 イギリス 監督:リン・ラムジー)
ヒューマントラストシネマ渋谷で観賞。
完全ノーマークの拾い物
完全にノーマーク作品。監督の過去作も観たことなく、ネットで情報に一瞬目を通した際も、典型的な「殺し屋と女の子の映画」かな?と思うだけでした。しかし、観に行った人から「なんか気持ち悪いヘンな映画だった。ホラーみたいというか…」という感想ゲット。普通のホラー映画はもちろん大好きですが、「解釈によってはホラー映画とも言える」映画や、「別ジャンルの映画のふりして実はホラー映画」な映画も大好きな自分としては観ないわけにいかぬ。
一見よくあるジャンル映画
元軍人の経歴を持つ男。ふくよかで髭モジャというダメそうな見た目ですが、「ナメてた相手が殺人マシーン映画」級の戦闘力を持っているプロ。タイマン・奇襲ではほぼ瞬殺の無敵。そんな彼は、年老いた母を食べさせる為に、犯罪組織に誘拐された少女を救出し報酬をもらうという正義の殺し屋稼業を行っています。今回も、一人の政治家から自分の娘を救出してほしいという依頼を受けます…
ここまで書いたあらすじからは、「殺し屋と女の子の映画」以上の印象を受けないでしょう。しかし、この映画、あらすじや物語だけ見ると確かに、いわゆる「殺し屋と女の子」系のジャンル映画なのですが、実際に観ると全く違う印象を受けます。ネタバレや事前知識は無ければ無いほど楽しめるので、ここまでの時点で気になった人はネットを切ってすぐ観た方がいいです。
思ってた映画と違う
まず、この作品はどうやら、この男がその見た目からは想像できない戦闘力で悪をどんどん倒していく系のアクション映画ではないようだ、(例えば『96時間(08)』のような)、ということはすぐに分かってきます。
序盤。一仕事終えた男が帰宅。二人だけで暮らしている年老いた母親が、ヒッチコックの『サイコ(60)』をさっきまで一人で観てて怖かったと話し、男がサイコのモノマネをするという、ほのぼのシーンがあります。ですが、『サイコ』は精神に異常をきたした男が母親を殺し、女装してそのフリをしていたという話です。ここだけでも、「この男も頭がおかしいのか?」「この母親も殺されるのか?」という想像を誘い、不穏/不安/緊張感がにじみ出てきます。
話は予想できるのに映画としては予測できない
この先の具体的な内容には触れません。しかし、展開が進むたびに、物語としてはわりと王道のお話なのに、「ん?これ、『タクシードライバー(76)』の精神的な続編?」「いや、もしや黒沢清リスペクトな高度な心霊映画!?」。「いやいや、そもそも、どうなるの?」と、次々と違う表情を見せていきます。殺し屋映画?。犯罪映画?。心霊ホラー?。おはなしとしての展開は想像できるのに、映画としての流れ・意味は予想できず、最後まで緊張感が続きました。
この映画の目指しているのはおそらく、この揺れ動く「不穏/不安/緊張感」といった純粋なサスペンスな気持ちそのものなのでしょう。
なかなか味わえない映画体験ができます。2018年6月現在、巨匠の最新作も話題の大作も大量に公開されていて、映画ファンにとって観ても観ても観きれない嬉しすぎる状況が続いていますが、この『ビューティフル・デイ』もオススメです!あ、あと、ヒロインが超綺麗ですよ!
『ビューティフル・デイ』のパンフレット
22Pフルカラー。リン・ラムジー監督と主演ホアキン・フェニックスのインタビュー。映画ライター高橋論治さんによる監督の過去作と絡めた解説。映画・音楽ジャーナリスト 宇野維正さんによる音楽解説。そして、文筆業 品川亮さんによる「この映画を読み解くために、参照してもいいかもしれないキーワード集」も掲載。謎が多く、解釈が観客に委ねられた作品なので、観賞後に読むとより作品を味わえる良いパンフレットです。
映画「ビューティフル・デイ」公式サイト 2018年6/1公開