【映画感想】『犬ヶ島』-「けものフレンズ」好きにも「ひとりぼっち惑星」好きにも観てほしい名作ディストピアSF
(2018年 アメリカ 監督:ウェス・アンダーソン)
新宿バルト9で観賞
良い映画ありすぎ問題
2018年6月現在。観たい映画、観ておくべき映画、ノーマークだったけど評判がとても良い映画、がありすぎて、映画ファンの皆さんはいい意味で気が狂いそうではないでしょうか?。私はGW前くらいから心の鼻血が出っぱなしです。
今作『犬ヶ島』は、監督歴およそ20年程ですでに巨匠の風格あるウェス・アンダーソン監督の作品ということで、映画観賞ガチ勢からすると「観て当然」クラスの作品。しかし、私のような観る作品が特定のジャンル映画に偏りがちな人間にとって、心の中の「そのうち観る」棚にず~っといる監督でした。ですが、最近『ランペイジ』や『ピーターラビット』といった、幅広い意味での「どうぶつ映画」が面白い。そして今作は人形「アニメ」である!ということで初の映画館観賞。
素晴らしいディストピア映画
事前情報をできるだけ入れずに行ったので、始まった瞬間に内容の勘違いが。私は勝手にこの作品を『ズートピア(16)』のような、人間社会を動物キャラクターに置き換えた寓話だとばかり思っていましたが間違いでした。少し未来の日本。悪い政治家たちの策略により、奇病の感染源ということで全ての犬がゴミの島に隔離されて時間が経ったところから物語が始まります。人間が普通にいる世界観で、犬はリアルに犬です。
この、ノラ犬だらけで「犬ヶ島」と化したゴミ島の詳しい状況や設定はあっさりとしか語られません。しかし、少年と犬さんたちが島の中を探索していく中で、昔はレジャー施設もあり人が大勢いたこと、津波などの災害や原子力発電所の事故で封鎖エリアとなったことなどが見えてきます。圧倒的なヴィジュアルの背景と映画的に強いショット(しかない!)の力で、日本の美しさ/汚さ/楽しさ/不気味さなど様々な良い面・悪い面が、客観的なフィルターでろ過されて増幅されたメッセージとして目の前に広がります。
実質けものフレンズ
んん?我々はこの感覚を知っている!。ヴィジュアルの強度や情報量こそ全く違えど、これは『けものフレンズ』本放送時、回を重ねていくにつれ、その世界状況やメッセージが見えてくる感覚と同じだ!犬は「けもの」ですし、「フレンズ」を獲得していくお話ですので、『犬ヶ島』は実質けものフレンズです。
「ひとりぼっち惑星」へのルートを回避するお話
『犬ヶ島』には魅力的な未来描写があります。和風家屋や鳥居、浮世絵っぽい山、白黒日本映画っぽい草原といった、外国人から見て魅力的な日本風美術。その中で、ブラウン管テレビとドローンロボットが同居。レトロさと新しさが混ざった未来像のバランスは、『鉄腕アトム』から『サイボーグ009』くらいの日本の漫画や『地球防衛軍(57)』のような古い特撮映画にあった、実際にはそうならなかった未来像に近いものがあります。
悪い政治家を中心とした悪い大人たちは、自分の損得のために殺人ドローンや殺人ロボット犬(顔が旧メカゴジラ)を駆使し、不都合な事実を排除・隠ぺいしようとします。しかし、ひとりの少年の、好きだった犬に会いたいという気持ちが、この悪政を覆すきっかけになっていくのです。ところでこの映画、人形アニメーションであるという性質と、ウェス・アンダーソン監督の得意とする描写・演出により、「横移動」がメインの作品となっています。この感覚は、近年のゲーム機やスマホゲームで一つのムーブメントとなっている「最新ヴィジュアルによる2Dゲーム」を進めていく快感とも通じるものがあります。私の遊んだことのあるゲームでは『ひとりぼっち惑星』などもこのムーブメントに入りますが、誰もが損得だけを優先し、異物・自分と違う者を排除していった結果が『ひとりぼっち惑星』の世界とすると、映画『犬ヶ島』は『ひとりぼっち惑星』のような最悪の未来へのルートを回避しようとする物語とも言えるでしょう。
というわけで、色んな意味で『けものフレンズ』ロスの皆さまも、ディストピアSFっぽい雰囲気の2Dゲームが好きな方も、あとアニメ映画全部観るクラスタの皆さんも、映画館で『犬ヶ島』を観てください!
『犬ヶ島』のパンフレット
48ページの大ボリューム。信頼の「FOXサーチライト・マガジン」シリーズvol.12。『シェイプ・オブ・ウォーター』や『スリー・ビルボード』のパンフもそうでしたが、従来のパンフレットの枠を超えた事実上ムックレベルの充実した内容。おすすめです!