【映画感想】『少女ピカレスク』-「ちゃんとした」ホラー映画とアイドル映画の両立
(2018年 日本 監督:井口昇) シネマート新宿で観賞。
「あれ?ちゃんとしてる」
それが、この映画観賞中の気持ちでした。井口昇監督は、代表作が『片腕マシンガール(08)』、『電人ザボーガー(11)』といった、ジャンル映画好きにはたまらないB級映画のベテラン。近年の単館系作品ではさらに、その独自の作風をむき出しにしています。
『スレイブメン(17)』は、特撮ヒーロー映画をよそおいながらも、全くヒーローものではなく、傷ついた個人の内面へ内面へ入っていく、という超セカイ系映画でした。また、今年公開したばかりの『ゴーストスクワッド(18)』は、そのルックは一見、コスプレアイドルの安いコント。だが実は、「女子高生コンクリート詰め殺人事件」のように酷く虐殺された女の子たちの狂った霊が犯人に復讐していくという、陰惨で重いテーマと、その先の希望を描いた作品でした。
どれも面白いのですが、今までの作品には、「低予算を逆手に取った、かなりチープでしょうもないおふざけギャグ」という共通の作風がありました。そのチープなギャグを何度も乗り越えた先に生まれる感動のようなものが持ち味でもあるので、良い個性なのですが、観る人を明らかに絞る作風です。(私は好きです)
『少女ピカレスク』を観て「あれ?ちゃんとしてる!」と感じた理由。それは、今作は「おふざけ」が控え目だったのです。井口昇監督作品としては、驚きのバランスです。
ホラー映画としてちゃんとしてる
『少女ピカレスク』は、地下アイドルのネット生配信を中心に展開するドキュメンタリータッチのホラー/バイオレンス映画です。映画の半分は、生配信のP.O.V画面で進行します。
数十人だけいるファンに向けて、今日も自宅でひとり生配信をするアイドル ヒカリ。しかし、生配信を見ていくうちに、ストーカーのような嫌な人に悩まされていることが分かります。さらにそのせいか、この女の子自身も情緒不安定になっていることなどがうかがえてきます。
PV撮影のシーンや、新曲PVの共演者である別の女の子の生配信を見ていくうちに、ヒカリがかつて父親に虐待されていたらしいことや、やはり何か異常なモノが近くにいるらしいことがうかがえ、だんだん不穏な事態になっていきます。この、アイドルの生配信を活かした演出が上手い。油断しているといつの間にか画面に怖いものが映っていて「うお!」となる瞬間が何度かありました。日本の他の監督でいえば、白石晃司監督のホラー作品を頂点とする「Jホラー以降のJホラー」の性質に通じる部分もあります。
アイドル映画としてちゃんとしてる
『少女ピカレスク』は、ちゃんとした怖いホラー映画であり、残酷なバイオレンス映画でもあります。しかし、この作品が凄いのは、それでもなおアイドル映画として成立しているという点にあります。まず、物語そのものが、ほんの少しのファンしかいないような地下アイドルの孤独を描いています。井口昇作品としては、やはり今までの作品と連続するテーマで、虐待などで傷ついた人間とその癒しを描いていると言えます。ホラー映画でありバイオレンス映画ですが「恐怖」や「暴力」そのものをテーマにしているのではなく、あくまでも人の孤独を描いているのです。その心を痛めた孤独なアイドル「ヒカリ」が憑依したような、主演の椎名ひかりさんのシンクロ具合も素晴らしい!。主演のアイドルを魅力的に描いているという意味でも『少女ピカレスク』はちゃんとしたアイドル映画です。日本のホラー映画好きの方もアイドル映画好きの方もぜひ観てください。
『少女ピカレスク』のパンフレット
は、ありませんでした。なので、映画館で売っていたMカードというグッズを購入。
この映画の主題歌『確認事項:しあわせとかについて』のフルサイズとカラオケ音源。そしてフルサイズのPVと、映画の簡単なメイキング動画(4分ほど)がダウンロードできるカードです。パンフレットが無いのは残念でしたが、主題歌CDを買う感覚で映画のメイキングも観られるのは斬新です。また、PV自体が映画の中で作られるので、PVも事実上映画本編の一部となっています。作品内容にマッチした良いグッズです。
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