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映画感想『ザ・スクエア 思いやりの聖域』しつこく長いのに妙に面白い

2017年  スウェーデン・ドイツ・フランス・デンマーク合作 監督:リューベン・オストルンド (新宿武蔵野館)

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非常に見ごたえのある凄い映画

正直、一度観ただけでは咀嚼しきれていません。というのも、この作品「非常に映画的で見ごたえのあるショット」「思わず笑ってしまうような出来の良いブラックコメディ」と、それでけで最上質の映画です。各シーンを眺めているだけで面白い。ですがさらに、そこにとどまらず、芸術とは、表現とは何か?を問いかけ、人間の道徳・倫理観など、様々なことについて問いかけてくる内容となっています。劇中には、同じ問いかけ機能を持つ現代芸術が登場しますが、この映画そのものが、参加した観客に様々なことを問いかける現代芸術として成り立っている、という多重構造があるのです。

現代美術を扱う美術館のキュレーターをしている男クリスティアン。彼は、新しい展示物「ザ・スクエア」を企画中。「ザ・スクエア」とは、床に作られた4メートルの正方形スペース。そこは「思いやりの聖域」と呼ばれる。その中にいる人が困っていたら、あなたは手を差し伸べなければいけない。という、観客の倫理観に問いかける参加型のアートです。

ある日、クリスティアンは町中で困っていた人に手を差し伸べようとして逆に特殊なスリ被害に遭い、携帯やサイフをスられてしまいます。その事件をきっかけに、一口では説明できないやっかいで迷惑な可笑しい出来事が、芋づる式に巻き起こってしまうのです。

本当にしつこい人々

この作品には本当にしつこい人間がたびたび登場します。たとえば、クリスティアンがスられたものを取り戻そうとする行動により迷惑をこうむった少年。彼は完全に被害者ではありますが、ストーカーばりに押しかけ、正論で謝罪をひたすら要求し続けます。たとえばクリスティアンと寝ることになる女性。ベッドでの事後、急に始まるまさかの攻防には爆笑。さらに後日、美術館に押しかけてクリスティアンの倫理観を具体的に問い詰め続けます。少年も女性も、狂気じみた勢いで彼に迫ります。迫られる本人には迷惑な話ですが、見物している観客側には喜劇です。終盤、謎の筋肉男の登場による、劇中最もしつこいシーンでは、あまりのしつこさにより、見ているうちに驚きが笑いに、笑いが恐怖に転換するという、感情の稀有な揺れ動きを体験しました。

映画のタイトルを「ザ・スクエア しつこさのお手本」にしてもいいんじゃないかな?と思える程、しつこいシーンが随所に存在することもあってか、上映時間の151分は長く感じます。しかし、普通なら「長く感じる=つまらない」になりそうなところが、この作品はそうではありません。ほとんど全てのシーンに映画的な見所があり、物語もどこに転がるか全くわからないため、「長くてしつこいと感じるのにずっと面白い」という、かなり珍しい映画体験となりました。

ザ・スクエア 思いやりの聖域』のパンフレット

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 24ページフルカラー。様々な問いを投げかける作品ということで、作品解釈の補助となる記事がメイン。監督自身による作品解説とインタビューで6ページを費やしています。さらに、古市憲寿(社会学者)、立田敦子(映画ジャーナリスト)、飯田高誉(インディペンデントキュレーター)と3人のレビューを各2ページ掲載。正方形のデザインで、この映画そのものが「ザ・スクエア」という現代芸術であるということを現しています。

www.transformer.co.jp

 

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